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雲南旅行 10日目(終)

■10/24 
昨日にひきつづき朝5時に起きる。私がこの宿を離れる番だった。 
廊下も階段も真っ暗だったが、電気をつけるわけにもいかない。そもそもスイッチの場所がわからなかった。中庭からのすこしの灯りを頼りに、階下に下りて顔を洗い、歯を磨いた。 

ゆうべRさんに「明日は起こさないように帰ります。いろいろありがとう」と伝えて、目覚ましも枕の下に敷いて寝たのだが、Rさんは自ら5時すぎに目覚ましをかけて起きてきてくれた。 

パッキングは前日にほとんど完了していたので、上の方に洗面道具を突っ込んだらもう準備が整ってしまった。Rさんにせわしなく別れの挨拶をして、中庭に出ると、宿のおばさんが「タクシーが来ているよ」と教えてくれた。宿のおばさんは、「サヨナラ、再見」と寂しそうに言った。私は、「再見、再見」と言ってタクシーに乗り込んだ。ドライバーさんがトランクを開けてくれたが、バックパック1つなのでそのまま持って乗った。 
タクシーは、麗江の町並みをあっという間に抜け、夜明け前の真っ暗な道を行く。 
麗江空港はどこにあるのか知らなかった。どの方角に向かって走っているのかもわからなかった。 


昆明に戻ったら北京行きの飛行機が出るまでに数時間余裕があるのがわかっていた。 
駅前に行けば野生児に会えるかもしれない、昨日MKちゃんが会えたとは限らないし、と思ったが、行きたくないような気もした。 
行って会えば、お別れの挨拶をしなくてはいけないから。 
わたしは忙しさの中でだんだんこの日々を思い出さなくなるだろう。 
「また来ます」と言ったのは嘘じゃなかったけど、結果的に嘘になるかもしれない。 


そのように考えていたら、ドライバーさんが「60元、通行税で必要です」という旨のことを(筆談だったか、英語だったか?)言ってきたので、言われた通り渡す。日本の高速道路みたいな料金所があった。 
ほどなくして、遠くの方にぼんやりと灯りが見えてきたと思ったら、「机場(空港)」という標識が近づいてきた。空港は新しかったがやはりハリボテっぽかった。ドライバーさんに礼を言い空港の建物に入ると、すでに待合室には十数人の中国人がいた。チェックインカウンターは1カ所だけ開いていて、待つ人もいなかったのでチェックインの手続きを済ませて待合室に戻る。土産物屋や売店は開店前だった。 
昨日スーパーで買ったクッキーのようなものを朝食代わりに食べながら、本を読んで搭乗時刻を待つ。 

機内ではオレンジジュースを受け取ったことだけ覚えている。あっという間に昆明空港に着いた。 

コインロッカーを探していると、それと思しきピクトグラムが矢印とともに掲げられているのだけど、その矢印どおりに進んだら元の場所に戻ってしまった。しかたがないので中国語会話帳を開き、「荷物を預ける」という表現を調べて書き写す(ノートには「寄存一下 行李」と書いてある。「一下」は「ちょっと」でしょうか)。空港内の掃除をしているおじさんにそれを見せると、地下にあるというしぐさをして見せてくれる。「↓」の矢印は、直進ではなく階段を下りろということだったのか・・・ 
地下に下りたらすぐにカウンターが見つかった。5元か10元で24時間だった気がする。カメラはもういいだろうと思い、バックパックに入れて預ける。 

空港から外に出ると、駐車場の先にバス乗り場が見えた。1元で市街まで出られる。ここまで旅してくると、初日にわざわざタクシーで市街に出たのがバカバカしいように思えたが、旅行ってそんなものだ。 

郊外の広告看板を眺めながらバスに揺られ、終点で下車した。大きなホテルがいくつかある街道沿いで、昆明駅までは遠くないだろうと思ったが、自分がどこにいるのかいまいちわからなかった。ホテルのエントランスを掃除しているおじさんに「昆明」と書いて見せると、指差して教えてくれたが、迷惑そうな表情だった。 

おじさんに教えられた方向に歩いていくと、野生児に西山森林公園へ連れて行ってもらったときに使ったバス停が見えてきた。そのまま直進して左に折れれば昆明駅が見える。 

駅前はあいかわらずゴミゴミしていて、縁石の下には汚泥がたまっていたけど、なぜか、帰ってきたなあという気分になってうれしかった。野生児には相変わらず、会いたいようで会いたくなかった。 

親切にしてもらった警察の詰所の裏を過ぎ、駅前に出た。鉄道警察のブースが見える。1つ目、いない。2つ目にもいなかった。ちょっと距離をおいてじっと見ていたが、どこかから戻ってくる気配もない。非番だろうか。 
駅前はひととおり探して、駅の裏にある長距離バスターミナルも見に行ったがいなかった。自分でもがっかりしたのか安心したのかわからなかったが、体の力が抜けたようだった。警察の詰所に行けば、私たちを覚えている人が誰かいるかもしれないと思ったが、その気力もなかった。 


昆明にもう用はないが、人民元がまだ余っていた。野生児が吸っていた「雲煙」という煙草を1カートン買い、コンビニのような店でM&Msを買った。ぶらぶらと歩いて時間をつぶし、空港行きのバスに乗った。