umipan

fluctuat nec mergitur

雲南旅行 3日目

■10/17
朝8時半に迎えが来て、石林に行く。 
バスと聞いていたので相乗りかと思っていたら、タクシーのチャーターだった。 
昆明の市街を抜けるとずっと同じような風景で、いかにも養分がなさそうな土地にたくましく木が生えていて、ときどき石造りの民家や飲食店、倉庫のような建物がある。 
途中のガソリンスタンドでドライバーが自分で洗車していたので、それを車内から写真に撮った。古い車だったので、窓やドアの隙間から水が入ってくるんじゃないかと思ったが、入ってこなかった。 
途中、町らしきものはなかったと思う。家と家のあいだも十数キロはありそうで、ときどきリヤカーを引いたおじいさんやおばあさんが歩いているのを見たが、一体どれだけの時間をかけて、何をどこまで運んでいるのか、想像もつかなかった。 
山のほうを走っているときは、農家の軒先にとうもろこしが適当な感じに干してあるのを何度も目にした。オレンジに近い、黄色いかたまりなので、色彩にとぼしい風景の中でいやでも視界に入る。私は、とうもろこしは圧力鍋でふかすと甘くておいしい、とかいう話をした気がする。 
石林の入り口の手前で車を降りる。ドライバーと帰りの時間を約束して中に入った。 
石林は周りを湖に囲まれているので、橋を渡るのだが、それがなんだかテーマパークのような橋で、いやな予感がした。 
土産物屋の脇を抜けていくと、観光バスが止まっている駐車場がある。まだ石は見えてこない。奥へ奥へ歩くと、人のざわめきが聞こえてきて、石が見える場所までやってきたら、物売りと観光客がひしめきあっていた。 
入り口に近い手前の石に、看板代わりなのか「石林」と赤く記されているのだけど、それがいかにも油性ペンキで書きましたといった感じだった。 
石林はその名の通り石(岩)が地面からにょきにょきと生えているような場所で、おそらく雲南一の観光スポットだと思う。石群がよく見渡せる場所には例外なく人がびっしりといて身動きがとれないので、景観を楽しむ余裕はあまりない。石と石のあいだの狭い隙間にはまってぼんやりしている時間は楽しいが、全体は見えない。 
私は勝手にミステリアスな場所を思い描いていたので、なんだこりゃ・・・とヘナヘナした。 
でも時間はあるし、せっかくここまで来たので、一番の高台にある展望台にも上ってみたけど、階段は狭く、人は多く、なかなか進まない。展望台の上でも、中国国内の別の都市から来ていると思われるツアー客が、一組上っては記念写真を撮り、次の一組も写真を撮り、とやっているので、なかなか吐き出されていかず、上って降りただけで私たちは消耗していた。 
展望台を離れ、とりあえず一周してみようと歩くと、途中に広場のような場所があり、そこで中国人の団体がマイムマイムのような踊りを踊っていた。メロディはなく、「1、2、3、ヘイ!ヘイ!」というかけ声だけで踊っている。一組踊り終わって去っていっても、次の団体が来てまた同じ踊りを踊る。流行っているらしい。とても楽しそうだ。 
昼どきになったので、一度石林を出て入り口の方へ戻り、食べ物屋を探す。観光地価格を払うのは癪だったが、どこが飲食店なのかよくわからない。歩くうち、メニューも出ていない食堂のようなところをMKちゃんが見つけ、昼食をとれるか?と訊いてくれた。とりあえず座れというようなことを言われたのでそこに入る。 
メニューを見せてくれと言ってもメニューが存在しないようで、食材の入ったショーケースの前に連れて行かれる。選べということらしい。青い葉っぱと、白いキノコと、春巻を指さしたら、「辣(ラー)は大丈夫?」と訊かれたので「少しなら」と言った。 
調理法に関しては「スープ(湯)がほしい」ということしか伝えられなかったが、ちゃんと調理されて出てきた。青菜がスープ、キノコは炒め物、春巻は春巻で出てきて、ごはんとお茶ももらった。当たり前のようにおいしくて、ほっとする食事だった。醤油らしきものを春巻にかけたら、なぜか砂糖の味がした。店員さんたちがみんな若いのによく立ち働いていて感心する。 
会計をするとき伝票を覗いてみたら、キノコのことは「菌」と書いてあった。 
昼食の後は石林の反対側にある丘に登り、写真を撮ったり休んだりした。丘を下りて土産物屋で絵はがきを買い、友人に宛てて書いた。 
昆明へ戻るときも同じ経路だっただろう。リヤカーおじさんもまた見た。 
宿に戻って、中国だから、自転車を借りて昆明駅のほうへ行ってみることにした。自転車を貸してくれた青年はコンピュータの勉強をしていた。 
自転車だと町がとても小さいことがわかる。車道を走るので右折が怖い。地元のおばさんのあとについて曲がる。 
駅の近くに自転車を停める。 
この翌日に西山森林公園というところに行こうと計画していて、歩き方には直通でバスがあると書いてあるが、どこから乗ればいいのか分からなかったので、駅のまわりで警察官らしき人何人かに行き方を筆談で聞いた。でも、直通バスはないから乗り換えて行けと言われたり、わからないと言われたりした。 
駅に一番近い鉄道警察のブースに行ってみたら、年配の警官一人と若い警官一人がいて夕飯を食べていた。公園への行き方を聞いたら、若い方が、わからないけどとりあえず来いと言い、警察の詰め所に連れて行ってくれた。 
そこでも食事中で、警官と、その友達か何かだろうと思われる私服の人が何人かいた。筆談と中国語会話帳を駆使して行き方を聞いたら、みんな最良の行き方を教えてくれようとして、何番のバスに乗れ、いや何番だ、と大騒ぎになり、肝心の警官は私の会話帳を熱心に読み始めて役に立たず、結局何番のバスに乗ればいいのかちっともわからない。 
それを見て笑っていたら、最初ソファーに座ってごはんを食べていた女性が突然「この人は明日非番だから、あなたたちを西山森林公園に連れて行くわよ! 好?(いいですか?)」と言った。突然ではないのだろうけど、会話の内容がわからないので突然に思えた。 
「この人」とは、私たちをこの詰め所に連れてきてくれた鉄道警察の青年のことで、「いいですか?」も何も、彼の都合はどうなんだろう、と思って私たちも「好?」と言ったら、その女性にまた「好?」と返されて、私たちは「ありがたいけど迷惑ではありませんか?」ということを伝えられないまま、そして彼自身の意志も確かめられないまま、待ち合わせの時間まで決められて「じゃあ明日!」とニヤニヤ送り出された。彼の名前は楊鋭というそうだ。 
突然のことでびっくりしたのと、思ってもいなかった親切に感激したので、息が上がっていた。「彼は今ごろ、絶対あの人たちに冷やかされているね」と言いながら、また自転車に乗って、春城路という大通りを通って、宿に帰った。